山の人の知恵。マムシを捕るのも好きな靖一さん。―限界集落に嫁いだ元新聞記者が、限界集落になりゆくむらで育った夫に聴く⑨―
畑山に来て
驚いたことはたくさんある。
でも、
自分が求めていたことでもあるので
嫌うというよりは
いつか自分もやってみたい
という好奇心が強い。
例えば、こんなこと。
圭子:
タヌキの油って
畑山に来て初めて知ったよ。
靖一:
タヌキの油は、昔から作りよるね。
傷薬にしたり。
昔は、塩がようけきいちょったと思うけんど。
その塩漬けのタヌキ油を焼いて、
傷口に落とさないかんがやき。
油を傷口の上にもっていっといて、
焼いて、傷口へ落とすような使い方。
圭子:
今はお母ぁが作るよる
タヌキの油は
塩漬けやなくて
白色でそうとうキレイなよね。
においもあまりないし。
私でも違和感なく使えるくらい。
オブラートに包んで風邪薬に
って言われても、受け入れられるくらい。
靖一:
そうやね。
胃潰瘍とか
胃の薬になるっていうけんど。
昔のタヌキの油やと、飲むのはきついと思う。
昔は塩漬けのような油。
今はラードみたいな感じやろ。
圭子:
そうそう。
ラードみたい!
靖一:
タヌキ独特のワイルドさが
昔のにはあったけど、
今のは上品になっちゅう。
どこで習うてきたんやろうね。
今のこの純度の高い油なら
飲み薬にしてもいいのかもしれんけんど。。。
圭子:
今の季節になると
マムシ…
うちにもおったがやろうかなぁ。
ヘビはようけおったけど
マムシの記憶はあんまりないがよ。
青大将って私の腕より太いのは
おったりしたけど。。。
靖一:
マムシは、頻度にもよるけんど
学校から帰ったら、
七輪の上に、
とぐろを巻いた状態で
骨があぶってあったがよ。
ポリポリしてみたら、
意外とおいしいやん!
っていうことで食べました。
身は食べたことないなぁ。
圭子:
お義父さんが好きやったが?
靖一:
マムシは、おやじは好きではなかったと思う。
お母ぁは
とにかく捕るのが早かったきね。
鎌をもっとったら、
一発やけど。
なかったら、
木の枝とかでね。
声を出すと、マムシが逃げるきね。
マムシを見つけたら
声を出したり、
目を離さずに
「タッ、といかないかん」。
圭子:
お母ぁは怖くないがやろうか。
靖一:
怖いっていうのはあると思う。
怖いっていうのがあるき、
どう対処せないかんっていうのがあるがよ。
圭子:
靖ちゃんも捕るの好きでね。
靖一:
自分が捕るようになったのは、最近。
お母ぁの従弟がうちへ
仕事に来よった時に、
500mlのペットボトルに
マムシを捕まえてきたことがあって、
いろいろ聞いてみた。
そいつが捕まえてきたのを見て、
意外とやれそうやんって思うて。
俺は、びびりやけん。
捕る時は、
完全武装で行くがやけど。
簡単にとれたがね。
圭子:
マムシが好きやないって言いながらも、
梅雨時になったら、
わざわざとりに行くよね。
靖一:
面白いんやろうかなぁ。
ドキドキ感というか、
達成感というか。
生け捕りにしたら、
それなりに価値がでるき、
捕ろうと思うがやけど。
圭子:
そう言うて売ったことはないろ。
商売苦手やもんね…
でも、買いに来た人もおったがでね。
靖一:
買いに来たいうか
「1年もので1本1万円
2年もので1本2万円」
って言うた人がおったがね。
そういう市場もどっかにはあるがやろうね。
圭子:
くれぐれも噛まれないように…