高知県の地鶏「土佐ジロー」専門店

はたやま夢楽
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奥山に生きる 4

八月七日に、立秋を迎えた。

猛暑が続くと思われたが、
折よく百ミリを超える雨が降り、
朝晩は暦通りに涼しさが増していった。

かつて台風銀座と呼ばれた南国土佐も、
近年は盛夏の台風が少ない。
恵みの雨に違いないが、頭を垂れ始めていた稲は倒れてしまった。

心配しつつ、お盆に稲刈りをした。
奥山ならではの一日の気温差と水の清らかさが、
美味しいお米を育んでくれる。

ジローのおうちで提供するご飯は、
すべて畑山で育てる自家米。
土佐ジローの卵かけご飯や、
親子丼になる。
朝食の「おかわり」の声が嬉しい。

食材は、育った土地のものを組み合わせると美味しい、
と言われる。
畑山の土や水、空気、日光で育った土佐ジローとご飯を、
畑山で味わう。豊かだと思う。

嫁に来る二〇一〇年のこと。
離島で生まれ育ち、飲み水にも苦労した祖母は、
「お米が育つ土地で暮らせることは幸せなこと」と、
私の結婚を喜んでくれた。

漁村に生まれた私は稲作とは無縁で育ち、今もすべてが新鮮で、興味深い。

 

三月、枯れ草が一面に広がっていた田んぼに、
耕運機の音が鳴り響く。
人口二十人の限界集落に、
出身者が稲を作りに戻って来る。
苗を育てる農家は既になく農協の育苗センターで購入する。

桜が咲くが早いか、
市街地では苗を棚にしたトラックが往来するようになる。
田植えが近いことを告げる安芸の風物詩だ。

程なく、畑山の田んぼにも苗が並び始める。
ことしは、我が子二人も田靴を履いて、
それなりの手伝い役となった。

小学五年生でトラクターを操縦していた父には程遠いけれど、
年々頼もしさが増している。

桜が散ったころ、
農家仲間に機械を持って来てもらって田植え。

四十アールほどの田んぼは、
半日ほどで苗が植わる。
水鏡を渡る風が、まだ幼い緑を揺らす。

水をたたえた田んぼに、
ホウネンエビが姿を現す。
冬の間、乾田だったところから、
いきなり元気なエビが登場する。
初めて見たときは、生命力のたくましさに驚いた。
豊作のサインとも呼ばれ、縁起が良いという。

 

中干しなどを経て、稲が実り、
頭を垂れてゆく。
畑山では、台風の襲来や豪雨の時期にも重なり、
やきもきする。

今でこそ天気予報もあり、
不作でも購入という道が残されているが、
昔の暮らしでは、気が気でなかっただろう。

 

稲刈りが終わると、
無数のトンボが空に舞う。
ヒグラシやツクツクボウシが鳴き、
落ちて来るイガグリが大きくなってゆく。

畑山を覆いつくすほどの柚子の実も、
テニスボールほどになる。

空は高く青く、雲は白さが際立つ。
栗の実が太り新米で炊く栗ご飯。
ムカゴもそろそろだ。
美味しい秋がやってくる。  

     (小松 圭子)

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