都会へ憧れることはなかった。
都会へ憧れることはなかった。
限界集落に嫁いだ元新聞記者が
限界集落になりゆく
むらで育った夫に聴く16
圭子:
靖ちゃんは、畑山へ残ったけど
健ちゃん(次男)らは、
中学卒業と同時に県外へ出たよね。
同級生も皆、町へ出て行った。
それに加えて
弟らも出ていった。
靖ちゃん自身は
都会へ憧れたり
羨んだりっていうのはなかったが?
靖一:
健二は、
中学卒業で
トヨタに。
茂も大阪ガスに入ったがね。
会社が用意してくれた
学校に通いながら
働くって形で
就職したわいね。
圭子:
学校の歴史の教科書で
集団就職について習うたけど
それとは、時代はちょっと違うよね。
靖一:
昔のような集団就職ではないかもね。
茂が就職する時に
「都会へ行ってどうするつもりな?」
って聞いたら
「俺は行きたい。自分を試したい」
って言うたが。
でも、3年目あたりで
「帰りたい」って言うてきたことがあったがよ。
そのときは
「自分で選んだ道やろう。
そんな気持ちで行ったもんじゃないやろう」
って止めたんよね。
でも、茂自身の想いに反した
っていうことで、
たしなめたわけではないが。
戻ってきても
俺は茂の仕事を創ってやることもできてなかったし。
畑山に戻って来て
何をしたらえい、
とは言うてやれざったがよ。
ただ、そうやって思いとどまらせて
大阪におることにしたのがよかったんかどうかは
ずっと胸に引っかかったままあったがね。
自分が都会へ憧れるっちことは
無かったけど、
弟らが帰って来れる場所にできてない
もどかしさはずっとあったかもなぁ。
圭子:
靖ちゃんは
中学を卒業して
職業訓練校に行ったよね。
そのあと、
小松建築に 弟子入りして。
弟子の時に
夜間の高校に通うたよね。
靖一:
アンチ学歴みたいな考えがあったがやけど
高校くらいは出ておこうかなぁと思うてね。
仕事が終わってから
学校に通って、卒業したがよ。
圭子:
なんで大工やったが?
靖一:
大工は俺にとっては
最後の砦やったが。
大工道具1つで
50万円からの道具になるがよ。
まかり間違えても、
大工でなら
食いつなげられるやろうっていうのが
俺にとっての大工やったが。
でも、限界集落やと家が建つことは無いがよ。
自分が大工で身を立てようとするなら、
人のおらんくではできんが。
毎年、人が減っていく中で、
人が減るのをなんとかしたいって、
青年団をしながら、もやもやと思い始めちょったがね。