奥山に生きる 3
2025年6月から、毎月1回の連載を始めました。
奥山に生きる ~自然とともに、あるがままに~
というタイトルで、私の想いや畑山の暮らしを紹介しています。
今のところ月初めから
土佐ジローをお取り寄せいただく際に同送したり
ジローのおうちにご来店の方に無料配布をしています。
webでも月半ばごろに公開しています。
ご高覧いただければ幸いです。

奥山に生きる 3
自然とともに、あるがままに
知ることで見えてくる世界がある。
上から眺めて何もいないと思う川。
水中眼鏡で覗けば、鮎やハヤ、ゴリが右に左に泳ぎ回っている。
樹種の少ない植林地だと思っていても、
希少種があったりする。
動植物の名前や生態を知ることで、
奥山で暮らす楽しみは日ごとに増している。
ジローのおうちと市街地を往来していると、
並走するリーゼント姿のヤマセミ。
キセキレイは、上下に振れながら、
道案内をするように先導してくれる。
梅雨入りするころ、
アカショウビンが美声を里に響かせ始める。
またの名を雨乞い鳥。
靄に覆われ、水墨画のようになった里に、
華やかな音色を添える。
だが、紅色の艶やかな姿を見せることは滅多にない。
だから、出会うと小躍りしたくなる。
梅雨明けには、ムカデランが小さな花を咲かせる。
高知出身で、先の朝ドラの主人公となった牧野富太郎博士。
博士が名付けた花は、氏神様に鎮座する大木の上方に自生し、
天然記念物に指定されている。
針状の葉の姿から名付けられたという。
とても小さな花なのに、
きちんとランの花の形をしていて、愛らしい。
初夏には、キヌガサダケも姿を現す。
生えてきたばかりでは、一本の白いキノコ。
時が満ちれば、茎と先端の傘の間に織り込んでいる膜が、
レース状に、まるでスカートのように広がる。
キノコの女王と言う名にふさわしい出で立ちとなる。
それもほんの数時間だけ。
朝、見つけても、午後には無残な姿となる。
つい先日、県道脇にニホンカモシカの親子を発見。
川の対岸にいたからか、のんびりと過ごしている。
時折、こちらを気にする素振りも見せるが、
崖の草を食んだり、中洲をうろうろしたり。
シカを名乗れども、ウシ科。
動きはどこか緩慢でもあり、
ガードレール下からふらっと現れたときには
人かと見誤り、ぎょっとした。
畑山でもニホンカモシカに出会うのは稀だが、
全国的にはさらに希少。
農林水産省のYouTube「バズマフ」で
昨夏、私がジローのおうちの近くで
撮影した写真がチラッと紹介されている。
もともと動植物に詳しいわけではない。
畑山で出会う機会が好奇心に変えてくれる。
なにより、夫や家族、スタッフたちが
生き字引のように教えてくれる。
最近では、スマホをかざせば、教えてくれるアプリもある。
「よく、こんなところで暮らせますね」。
そんな風に言う人もいる。
私の“眼鏡”を貸してあげたい。
私よりも畑山を知る夫たちの“眼鏡”を
私も貸してもらいたいと思う。
まだまだ気づけていない畑山の楽しみが、きっとある。
“眼鏡”の処方箋を作って、皆にかけてあげたい。
文・小松圭子
写真・小松圭子 小松靖一
◇こまつ・けいこ◇
(有)はたやま夢楽社長。
高知県安芸市畑山で養鶏業や旅館業を営む。
愛媛県出身、元新聞記者。
#田舎を楽しめる人と繋がりたい