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鶏らしく育てる

メールマガジン『萬晩報』2011年7月23日
小松圭子

我が家は、養鶏農家。高知県が開発した地鶏「土佐ジロー」を育てている。

「土佐ジロー」は一代種。国の天然記念物で、鶏の原種鶏「赤色野鶏(セキショクヤケイ)に近いとされる「土佐地鶏」を父に、在来種「ロードアイランドレッド」を母とする。「土佐地」と「ロー」をつなげた名前が「土佐ジロー」だ。高知県の登録商標でもある。

 ヒナを輸入に頼ることの多い養鶏業界にあって、土佐ジローは種卵から肉卵に至るまで、高知県内で行われる。

 高知県畜産試験場で種卵となり、高知県土佐ジロー協会がふ化事業を担う。飼育できるのは、同協会が認定した会員のみで、県外での飼育は認めていない。もともと採卵を主に始まった土佐ジローの飼育。今でも会員約100人のほとんどが有精卵用として飼育している。

 私の夫、小松靖一さんも20年ほど前、採卵用として飼育をスタート。しかし、数年後には、産卵率の悪さなどから、ふ化した直後に雌雄鑑別で廃棄されていた雄を肉用として飼うことに決めた。

 畑山の自然の中、自然放飼を前提に、軍鶏と同じように1年ほど飼うことから始めた。放っておけば高さにして数メートル、数十メートルは滑空する土佐ジローにとって、広すぎる鶏舎は、肉質を過ぎるほど、硬くしてしまった。元大工の靖一さんは、真新しいけれど、腑に落ちない鶏舎を壊しては、建て替える作業を繰り返した。平成10年に土佐ジロー様式を確立し、今に至る。

 ふ化した当日に、高知県土佐ジロー協会から引き取ってきたオスのヒナは、ガスブルーダーで約35度に保たれた小屋の中で育つ。生まれたばかりで、ぼぉっとしているヒナもいれば、早くも一生懸命エサをついばむヒナがいる。隣りのヒナの体を口ばしで突っつくなど、ちょっかいを出す子もいる。どの子も個性的で、見ていて飽きない。そして、40日程度で、肥育のための鶏舎へ移す。

 16平方メートルの部屋は、ネットに囲われ、空が見える遊び場にしている。昼間は、エサを食べたり、土を食べたりする土佐ジロー。つながっている同じ大きさの部屋は、トタン屋根で覆い、斜め階段状の止まり木を設置し、エサを食べた土佐ジローが休憩し、効率よく肉になるよう工夫している。いずれも土の上。土を食べ、自らの体調を管理している土佐ジローのため、適宜、畑山の土を足している。エサには、畑山の野草や、県内産の無農薬野菜やコメを与える。

 そして、生まれてから150日。雌で言えば卵を生み始めるころ、約1.5kgに育った土佐ジローを、さばき職人でもある靖一さんたちが解体し、肉として販売する。

 50~60日で3kgになるブロイラーと呼ばれる肉用鶏に比べれば、たくさんのエサを与えて日数を掛けたのに、重量が採れないシロモノ。養鶏業界にとっては異端だろう。

 でも、過食症状態で肉になっていく鶏に比べ、負荷をかけられてない内臓類は、刺身でも食べられ、味も抜群。白子、レバー、砂肝、心臓、トサカ。刺身でも、焼いても、煮ても、とにかく美味しい。パサつきやすいムネ肉でさえ、みずみずしく、私たちは、たたきで食べることが多い。真紅のモモ肉は、その色に驚くし、余分な脂分や水分がない。普通なら、黄色く脂ぎった皮も、土佐ジローではまったく別物。厚くて、ジューシーだ。炭火で焼いても、炭から出る煙はほとんどないため、室内の卓上でも焼ける。テレビなどの「絵」にはなりにくいが、食べた人だけが分かる本物の肉の味だ。土佐ジローを鶏らしく育てた結果の味だ。

 一時、都会のデパ地下では100g当たり900円以上の高値で販売されていたこともあった。今、高知県内では100g当たり500円前後、都市部では800円前後だろうか。

 生産から加工、販売まで手掛ける我が家の土佐ジロー。卸売価格は、靖一さんが決める。ハマチの養殖漁家に生まれた私には、とても稀有で、うらやましいことにも映る。ハマチなどの漁業者は、卸売業者に叩かれ、採算ラインを下回っても、売らざるを得ない。そんな状況が続き、廃業に追い込まれ、多額の借金を抱え、自殺していった人たちがいる。かといって、土佐ジローの販売価格が、掛けた手間やコストに見合う以上のものにはなってないことも分かっている。

 でも、利益を追い求め、エサの内容を変えたり、土の上から土佐ジローを離すなどする夫ではないし、そうあって欲しくはない。土佐ジローが鶏らしく育ち、私たちが生きるため、その命を美味しくいただけることに感謝したい。

不況下にある日本。震災に見舞われた日本。大変な世の中で、エンゲル係数を上げることは難しいかもしれない。けれど、自分の命をつなぐ「食」が、どう作り出されているのか。我が事として、興味関心を向けてほしい。

消費者が本当の安全安心に気付かなければ、生産者が本当に胸を張って作れる食材は消えてしまうのではないだろうか。人口の数%の生産者が支えている約40%の食料自給率が、これ以上減ってしまわないよう、「食」を生み出す現場の実情を知る努力をしてほしい。


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