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「限界集落」に嫁いで

政策シンクタンク「構想日本」JIメールニュースno.498
小松圭子

 昨夏、25歳年上の小松靖一さんとの結婚を機に、夫が生まれ育ち、暮らしてきた高知県安芸市畑山で住むようになった。

畑山地区は市街地から約20㎞。狭い道路幅はマイクロバスの片側通行が精いっぱいで、右手はノミで削り取られたままのような法面が迫り、左手は断崖の下に安芸川が流れている。道中に人家はまったくなく、携帯電話もつながらない。

市街地から40分ほど車で走ると、突然に空間が開け、田畑が広がる。桃源郷のようなところだ。

40年前は800人が暮らしていた畑山に、現在は約40人が住む。家があっても空き家や廃屋が多い。学校は平成8年に廃校となり、ほとんどの住民は70歳以上だ。

地区最年少である27歳の私に一番年が近い住民は47歳の義弟で、祭事などは廃れ、公民館主事や民生委員、道路の草刈りなど、あらゆる地域の世話役が夫に集中する。畑山はいわゆる「限界集落」だ。

同級生や後輩たちが故郷を去るなか、夫は畑山での産業化をめざし、高知県の地鶏「土佐ジロー」(肉・卵)の生産加工販売を手がけてきた。自然の中、土の上で育てている。ブロイラーなどは濃厚飼料を与えると、飼育日数が約60日で体重3kgになるが、土佐ジローは150日間で1.5㎏にしかならない。

味は絶品だ。肉には臭みがなく、噛めば噛むほど深い味わいが口の中に広がる。トサカやササミ、白子などを刺身で食べられるのも私の自慢の一つだ。

6年前には、安芸市が廃止しようとしていた赤字続きの温泉宿「畑山温泉憩の家」を夫が引き受け、「土佐ジロー」料理を大看板に運営を始めた。地鶏の料理を求め、年間5000~7000人が来てくれるようになっている。

この2つの事業で、家族と従業員の10人が働いている。従業員で畑山の住民は1人しかいない。限界集落の仕事を支える人材は明らかに不足している。

すでに故郷を去った人を呼び戻すことは非常に難しい。だが、農村で暮らしたいと思う人は少なからずいるはずだ。農業を手伝ってくれる人、散策句会などのイベントで自然を楽しんでくれる人、定住してくれる人…。

新たな人を迎えられるよう、土佐ジローを産業と情報発信の軸にして、これからも頑張っていきたい。そして、平家落人の伝説が残る畑山を、新しい畑山として次世代に渡せるようにしたい。

畑山の自然のなかで暮らしていると、人間の無力さを痛感する毎日だ。私たちにできることは、ただ備えること、身を守ることと、自然の驚異を知り、自然と向き合って暮らすこと。

東日本大震災のようすをテレビや新聞で見ると、現実のものとは思えない光景ばかりだ。
私たちに何ができるのか。畑山では、旧教員住宅を交流拠点施設に改修している。被災者の方の受け入れを含め考えていきたい。


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